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ダーク・グリーン

2006.06.24 Saturday | 癒される本

『ダーク・グリーン』(佐々木淳子著)――これは、わたしがこの人生で巡り会った長編コミックの中で、おそらく一番感動し、かつ癒されたものだ。
(短編だと、川原由美子の『翡翠の森』かなあ……)

以前「ウインダリア」について書いたが、これも同時代のもの。
(かれこれ20年くらい前、かな)

ちなみに、あらすじはこうだ。

――――――――――――――――――――――

198×年12月20日、世界中の人間が、「Rードリーム」と呼ばれる同じ夢を見るようになる。(正確に言うなら、同じ夢を共有するようになる――とでもいうのだろうか)

R―ドリームの中で、人々は「ゼル」と呼ばれる謎の悪夢と闘っていた。この「ゼル」とは単なる悪夢ではなく、夢の中でゼルに殺されると、現実の肉体も眠りながら死んでしまう。

主人公の西荻北斗(夢の中では戦士ホクト)は、R-ドリームの中で、謎の少年リュオンとともにゼルと戦いながら、R-ドリームの意味、そしてゼルから世界を救う方法を求め続ける。

そして、目指す果てには、途方もない真実が広がっていた――

――――――――――――――――――――――

……といったところかな。

このコミックのすごいところは、ただのファンタジーで終わらず、環境破壊や軍拡・戦争といった、「人類の危機」を正面から見据え、それらの本質的問題点、つまり根本原因をえぐり出そうとしている点だ。

『ダーク・グリーン』について語り始めるときりがないのだが、とりあえず心に残ったセリフをいくつか抜き出してみる。
――――――――――――――――――――――

ホクト「……誰でも確かな支えがほしいんだ」
ゴーマン「しかし、それによってわたしは本質を見極める自分自身を見失ってしまった」


リュオン「何だってそうだよ。人間の社会だって立派に意識をもってんだろ?一個の生命として動いている。ドッド・ゼッダが言ってたよ。“巨大な文明は自分で動いている”って」


ホクト「現実逃避の研究にね……」
バロー「現実逃避?冗談じゃない、R-ドリームを無視したらそれこそ現実逃避だ」


リュオン「今までいろいろ見てきたけど、悪いことは全部最後に人間にぶち当たる。戦争、公害、自然を崩して、ゼルを作って、自分自身さえ崩そうとして……」


ホクト「では、ゼルは……諸悪の根源ではないのか!? 悪とは違うのか!?」
名無しさん「悪……そのような概念は、(精神体である)我々にはありません。“悪”とは、“物質”である人間が“人間社会”を形成するために必要な概念だと思われます」


名無しさん「詮索しなかったあなた方のせいです。探せば答えは見つかったはず。あなたが今ここにいるように。もう手遅れです。あなたは遅かった。遅すぎました」


老「しかし、人間の精神は、特に無意識界では不安定だ。信頼関係になければ、のまれやすい」
アブドル「そんな、個人的感情に左右されるのですか。人類全体の問題に取り組んでいる大切なときに……こんな、プライベートなことで苦戦するなんて」


リュオン「ぼくらはひどく小さすぎる。巨大なダーク・グリーンにとって、ぼくらは何の意味もなさない」
リュオン・ホクト「心を無にして、西荻北斗という、リュオンという……人格と個性を捨てて……自分から……離脱!」


老「心を透明に……そう、解放させていく。心を空に持て……」


リュオン「あの巨人が人類だよ。そう、いつでも足を踏み外す危険性と隣り合わせで、それでも歩くのをやめるわけにはいかない」


ホクト「あれだけの目に遭っておきながら、現実は、なんて弾力があるんだ。……なんてしっかり“ここ”にあるんだ」


バロー「同じことが行なわれようとしているだけじゃ。地球は我々を情け深く守っておるわけじゃない。種を守る正義などない。滅ぶ種は滅ぶ。地球にとって痛くもかゆくもない」


磯貝「お前が眠っている間に、戦争が始まっちまった。バンクーバーは火の海だ。日本や、ニューヨークは……もうない」


ホクト「やめろ、もうウンザリだ!自分を守るために全部を壊しやがって!おまえたちの傲慢が地球を殺したんだ!」


リュオン「本当に人間は病原菌なのかな。生命にとってのガン細胞なのかな。
ホクト「もしそうなら、自滅するさ」
リュオン「では、もし人間が生き延びたら?では、もし人間が生き延びるなら、それはどういうふうに?」


――――――――――――――――――――――

どう?
おもしろそうでしょう?
いや、実際おもしろいんだな、これが。
SF好きも唸らせる濃厚なストーリー。
特に感動したのは次の――クライマックスでのホクトのセリフだ。

――――――――――――――――――――――

個人の身勝手、傲慢さ、

しかし、無意識界は一つだと知った

ひと皮むけば、みんな同じだと

なのに、なぜ、こんなに隔たりがある

なぜ他人の成功をねたんだり、失敗を望んだりする?

なぜ自分の自我に執着する?

誰をも受け入れる穏やかな心になれないものか

プライベートを超越することはできないのか……

――――――――――――――――――――――

……なんかすごいと思いませんか。

人の心の働きついて深く斬り込んでいったり、潜在意識に関して扱うというのは、「新世紀エヴァンゲリオン」や「蒼穹のファフナー」をはじめ、最近でこそ珍しくなくなったが、これを20年前にやっているのです!


そしてとにかく、圧倒されるのが強烈なメッセージ性。

先ほども少し書いたが、『ダーク・グリーン』では、現代社会の抱える様々な問題を、「夢」という道具を媒体としながら読者に訴えかけている。

ファンタジーの中に文明批判を織り込むというのは、M・エンデの「モモ」などでも取り入れられている手法だが、『ダーク・グリーン』は、それ以上だと思う。

それから、キャラクターの魅力。――特にリュオンとホクト!

R-ドリームは夢であるために目覚めればその世界から抜け出すことができるが、謎の少年リュオンだけは現実に目覚めることが出来ず、しかも現実の記憶が全くない。

リュオンは、Rードリームでは「最強」を誇る存在でありながら、反面、心は繊細で傷つきやすい。自分について何も知らないことにおびえ、苦しみ、自ら心を閉ざしたり、自暴自棄になったり――と。

それに対してホクトは、思いっきり不器用ながらも精一杯のやさしさを込めて接するのだ。

まあ、こういった背景があってこそ、ラストシーンの

「大好きだったよ」

という、リュオンのセリフが感動を呼ぶんだな。

(こんなことを書くとコード801御用達かと思われてしまいそうだが、そういうものでは全然ない。自然なのだ、とても。)


とにかく、『ダーク・グリーン』は、SFファンタジーとして高度に完成された文学作品であると同時に、地球を、人類を救うとはどういうことなのか、世界にゆがみを生じさせているものは何なのか、そして、自分たちはこの現実世界で何をしなければならないのか――こういったことを深く深く考えさせてくれる。



『ダーク・グリーン』(全5巻)は、ぜひ多くの人に読んでもらいたいと思う。


ダークグリーン (1)
メディアファクトリー
佐々木 淳子(著)
発売日:2001-04
ランキング:448655
おすすめ度:5
おすすめ度5 20年も前の作品
おすすめ度5 センス・オブ・ワンダー


ダークグリーン (2)
メディアファクトリー
佐々木 淳子(著)
発売日:2001-05
ランキング:447472


ダークグリーン (3)
メディアファクトリー
佐々木 淳子(著)
発売日:2001-06
ランキング:432549


ダークグリーン (4)
メディアファクトリー
佐々木 淳子(著)
発売日:2001-07


ダークグリーン (5)
メディアファクトリー
佐々木 淳子(著)
発売日:2001-08
ランキング:438466





 
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